
旨い魚を育む発酵飼料で、海をきれいにし、
しっかり儲かる養殖を
大分県佐伯市蒲江は、大分県の最南端。古くは漁業と真珠の養殖などの水産業で栄え、今ではヒラメやブリの養殖業が主要産業のひとつになっています。特にヒラメに関しては、養殖出荷量全国1位を誇る大分県の約9割を生産しているほどで、いわば日本の一大漁業基地と呼べる場所なのです。
海岸線は豊後水道と太平洋の黒潮の影響を受けるリアス海岸が続き、多くの入り組んだ湾が存在し、そのそれぞれが海に関わる仕事を行っています。その中のひとつ、ヒトデの形をした入津(にゅうづ)湾で養殖業を営んでいるのが、今回の取材先「河内水産」の河内伸浩(かわちのぶひろ)さん。

養殖場は小さな岬の先端の陸上にあります。河内水産は、「もじゃこ」と呼ばれるブリの稚魚を獲る漁師だった父・勇孝さんが、昭和60年に自らもじゃこを育て出荷を始めたことが始まりで、現在は「陸上養殖」で約5万5000匹のヒラメを飼育するとともに、カワハギも育てています。
大規模な養殖場を経営するだけでも大変なのに、河内さんは養殖には大きなテーマを設けています。それは海洋環境に良い養殖業を作るため、水産資源の持続可能性を実現させるための養殖システムを完成させること。
養殖業は、魚の安定供給ができる反面、海洋環境への負荷が大きいことが長年の課題です。給餌時の残餌、養殖魚の糞により窒素・リン等が増え富栄養化が進み、植物プランクトンが異常に増殖する赤潮など、養殖をすれば副産物的にそういった状況になってしまいます。それが繰り返されれば、そこで生活する魚に良くない影響を及ぼす恐れがあるというものです。
「人間でもそうですが、魚も、良いものを食べて目をかけてもらい、健やかに育つと、ツヤと弾力があって強くきれいになります。安いことや美味しいことはもちろん大切ですが、海を守るために、私たちはきれいな魚作りにこだわります。健康的に育てられたきれいな魚は、海をきれいにする魚になるからです」
と河内さん。

先代の父、勇孝さん
海洋環境に良い養殖業を創るという想いは先代からのもので、河内さんは大阪の大学院を卒業後にその想いを受け継ぎながら、養殖業の世界に飛び込みました。
そんな一見難しそうなテーマを解決に導くきっかけは、改善したいという意欲と行動、そしてひとつの縁でした。

親子2代で想いを形に
日本中の養殖現場で発生している赤潮が入津湾近郊でも起こった時、先代は試行錯誤を繰り返す中、環境を考えて菌の研究をしている大学教授のもとを訪ね、農業の分野で使われていた土壌を改良するという“菌”に出会ったことでした。
菌とは微生物のことで、微生物の中には環境を改善するものがいます。「土壌に良い菌ならば、海洋環境にもいいのではないか」という勇孝さんの直感は的中しました。試していると、設備に蓄積していた汚れが菌によって分解されていたのです。ここから研究と継続、改善を繰り返し、安全性を確認しながら菌を餌に混ぜるようになり、オリジナルの発酵飼料を完成させました。

もっと良いものを求めて日々改良を続けています
土壌を改良するため農業では使われていた菌をで作った発酵飼料ですが、魚に与えたのは河内水産が初めてでした。2008年には、菌を培養する小さなプラントも導入し、建屋を作ります。その仕事現場は養殖場でありながら、さながら研究所。ついには発酵飼料作りが軌道に乗り、さらに大きなプラントを購入するなど、インフラを整えています。
今でこそ「持続可能性」「サスティナブル」「SDGs」といった環境配慮の意味を含むフレーズが叫ばれていますが、環境への意識が今ほどはなかった頃に、家族経営の規模でお金と手間のかかる、オリジナル発酵飼料の開発への取組を行うことはかなり先進的で、負担も伴いました。先代から引き継いだ発酵飼料は、理系で大学院に進んだ河内さんがさらに改良を加え、日々餌を進化させています。

気になるのはその品質と味。河内水産のヒラメは専門機関で分析も行っています。「健康的に育てられたきれいな魚は、海をきれいにする魚になる」という思惑を超える結果になりました。河内水産のヒラメは、一般的な養殖魚と比較して、魚のうま味成分である「遊離アミノ酸」のバランスが良いことがわかりました。また、オメガ3(n-3系)脂肪酸やDHA、オレイン酸など良質な脂肪酸を豊富に含んでいることが証明されるなど、遂に想いは形になりました。
ついに長年の努力が結実し、養殖ブランド「巡(めぐり)」を立ち上げました。
「巡」は、水産資源の持続可能性を実現させるための養殖システム兼ブランド名。
河内さんの取組はまだまだ続きます。
「良い魚の定義は、“安くておいしい”だけではない。海に生かしてもらっている身として、養殖をしながら海の環境を少しでも良くできないかといつも考えて行動しています。決して楽な仕事ではありませんが、こうした取組があることを知った上で魚を選ぶことが海を守ることにつながります」。
今では養殖場の周辺に海草の一種、アマモが現れました。アマモは小魚や甲殻類などの棲みかになるだけでなく、海をきれいにし、二酸化炭素を吸収して酸素を作るなど、海の生き物だけでなく私たちにとっても大切な植物です。水質悪化や沿岸域の開発などによって、全国的に減少しているアマモが現れたことは、良い魚を作ろうと努力を重ねた結果、きれいな海を手に入れたという、何よりも嬉しい副産物となりました。
河内さんに養殖場内を案内していただきました。

ヒラメの陸上養殖場内は、高さ1メートルほどのコンクリート水槽が38基並び、ヒラメたちが悠々と泳ぎ回っています。
「ヒラメは、元々浅い海域の砂や泥の中を好む底生魚。その性質を利用した陸上養殖は、生育状況を把握しやすく、作業負担も軽減されます」。
また、養殖魚の天敵である赤潮対策として、先代の頃から地下海水を引いているため被害を受けにくく、健やかにヒラメが育つと言います。


通常のヒラメの養殖は生後1ヶ月、体長9cmほどの稚魚から1年ほどかけて1kg〜1.3kgほどの大きさになるまで育てますが、緑色の特殊なLEDライトの中で過ごすヒラメは通常より1ヶ月ほど早く出荷できるのだとか。少しずつ出荷時期が早くなることで、供給面、コスト面の効率が上がるといいます。
この緑色LEDライトは、県の水産研究部で2017年から開発してきた新技術で、3年間の飼育試験を経て実用化されました。緑色の光は、海底を好むヒラメにとって落ち着ける環境になるため、エサをよく食べるようになり、成長が促されるのだとか。
「地下海水」「緑色のLEDライト」「酸素発生器」が河内水産ヒラメ養殖の三種の神器。すでに自力で地下海水を導入していたため、LEDライトと酸素発生器を県と佐伯市の補助金で導入したそうです。

施策やブランディングまでを行っています
河内さんは「大分県のサポートでとても助かっています。新技術の導入に向けた補助金はもちろんだけど、困ったことや要望があればそれを解決できるような施策を考えてくれたり、時には“かぼすヒラメ”のようにブランドを開発して広報まで担ってくれる。僕らはその分、仕事に集中できるのですから」と話します。大分県の事業を守り大きくするため、企業を発展させるため、それぞれの役割を全うするためのコンビネーションが良い結果を生んでいます。
年間売り上げは、主軸となるヒラメで約5000〜6000万円。河内さんは1kgあたり120〜130円の自家製のエサを与えており、エサ代だけでなんと月に70万〜100万円、電気代も約70万円と、とても高額ですが「手間とエサの経費を惜しんでいたら、いい魚は育たない」と、自身のスタンスを守ります。

ヒラメの動きや反応を見ながら、
どんな業務も目配り、気配りを欠かしません
ヒラメを指さしながら河内さんは
「身体のマダラ模様がはっきりしていれば元気な証拠。すこやかなヒラメに育てる秘訣は、水槽内を過密にし過ぎず、質のいいエサを適量で与えること。あとは、日々の目配り、気配り。しっかり見ていると、動きが悪かったり、苦しそうな表情をしている子、気が弱くてエサがなかなか食べられない子を見つけることができるので、そんな時は迅速にケアします。台風の日でも、お正月でも、ほぼ休まずここへ足を運び、ヒラメのお世話をするのが日課です。もちろん従業員はしっかり休んでいますよ。ただ自分はこの子たちが気になって仕方なくて…」
と話します。河内さんにとってヒラメはかけがえのない“子”なのだろう。
河内さんに仕事やプライベートについても聞いてみました。
家を佐伯市内に新築したという河内さん。今の仕事で気を遣うようなお客さんはいないし、休みたい時は休む。経営者であるからこそ、自分の価値観に従って積み上げてきたからこそ、今の「巡」があるのです。
「子どもが大学を卒業したら、またバイクに乗ってみようかな。今は子どもの成長を楽しみに、次の世代を担う人たちが“継ぎたい!”、“やってみたい!”と思えるような魅力ある仕事を重ねていけばいいかな(笑)」。
取材を終えて、人の口に入るものを作ることの尊さや、日々見落としがちな自然や環境に配慮しながら仕事をすることの大切さを感じました。
農林水産業には夢があります。どれだけ忙しくても、どれだけ大きな責任感を背負っても、自分で決めて行動できる自由があります。好きなことで働く、稼ぐために働く、ワークライフバランスを考えて働くなど、仕事選びは様々。もちろん生き方も人それぞれです。
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